結論:あれはそのコースの実績ではない
コースページの「この訓練機関の過去の実績」に出ている就職率は、これから受けるコースの成績ではありません。実施機関が、その都道府県で、同じ分野の訓練を過去に行ったときの実績です。
求職者支援訓練についてはこの単位がはっきり決まっています。認定基準は、訓練を申請する者が過去に同じ分野の訓練を行っていた場合、同一の都道府県の区域内で、連続する3年の間に2コース以上実施した実績を評価する、と定めています。公表される実績も同じ単位です。つまり数字の持ち主は、コースではなく「機関 × 都道府県 × 分野」です。
これは理屈だけの話ではなく、データにもそのまま出ます。就職率が載っている1,001コースを、機関と数字の組み合わせで束ねると693通りしかありません。483コース(48%)が、他のコースとまったく同じ数字を表示しています。いちばん多いところでは、1つの実績が10コースに出ていました。
そもそも半分以上のコースには数字がない
就職率で比較しようとしても、比較できないコースのほうが多数です。
| 募集中のコース | 2,304件 |
|---|---|
| 就職率の数字があるもの | 1,001件(43%) |
| 数字がないもの | 1,303件(57%) |
内訳を見ると、訓練の種類によってまったく違います。求職者支援訓練は560件中466件(83%)に数字があるのに対し、公共職業訓練は1,744件中535件(31%)にとどまります。数字がない1,303件のうち1,209件が公共職業訓練です。
公共職業訓練で欠けやすいのは、事業主団体や専修学校に委託している知識等習得コース、それに新設や再編があった施設内訓練科です。数字がないことは、成績が悪いことを意味しません。過去3年に同じ分野の実績がなければ、公表するものがないというだけです。
「就職率」と「うち雇用保険適用」は別物
実績表には2行あります。この2つを混ぜると読み違えます。
| 就職率(中央値) | 82%(1,001件) |
|---|---|
| うち雇用保険適用(中央値) | 73%(964件) |
| 2つの差(中央値) | 9ポイント |
「うち雇用保険適用」は、修了者のうち、訓練が終わった日の翌日から3か月を経過する日までに雇用保険の被保険者になった人、または適用事業の事業主になった人の割合です。認定基準にそう書かれています。短時間のパートやアルバイトで、雇用保険の加入要件に届かない働き方は、ここに入りません。
差は訓練の種類で大きく違います。公共職業訓練は差の中央値が5ポイント(就職率85%、適用81%)ですが、求職者支援訓練は14ポイント(就職率80%、適用66%)あります。求職者支援訓練では、差が20ポイント以上開くコースが449件中129件ありました。
国が公表している令和5年度の求職者支援訓練の就職率は、基礎コース59.5%、実践コース60.3%です。当サイトの中央値80%と比べると低く見えますが、これは比べる指標がずれているためです。同じ資料に「従前の就職率」として基礎74.7%、実践76.2%という数字が併記されています。差の向きも幅も、コースページの「就職率」と「うち雇用保険適用」の関係と一致します。
全国値と見比べたいときは、「うち雇用保険適用」のほうを見てください。なお当サイトの数字はコース単位の中央値で、全国値は人数を積み上げた比率なので、そもそも厳密には比較できません。
3年並べると、かなり振れている
実績表には3年度分が並びます。3年ともそろっている798件について、最高と最低の差を見ました。
| 5ポイント以内 | 168件(21%) |
|---|---|
| 6〜10ポイント | 207件(26%) |
| 11〜20ポイント | 280件(35%) |
| 21ポイント以上 | 143件(18%) |
振れ幅の中央値は11ポイント。5件に1件近くが、3年のあいだに20ポイント以上動いています。最大は60ポイントで、33%・93%・68%と並んでいるコースがありました。ある職業能力開発促進センターの住宅リフォーム技術科は94%・87%・47%です。
理由は分母の小ささだと考えられます。定員10〜20名の訓練では修了者が十数人ということもあり、2人違えば10ポイント動きます。直近の1年だけを見ると、その年の偶然を実力と読み違えます。
就職率100%のコースは98件ありました。うち3年分そろっている67件を見ると、16件は3年のどこかで80%を割っています。100%は上限に貼りついた数字で、それ以上良くなりようがない、というだけの意味しか持ちません。
分野と実施主体による違い
最新年度の就職率を分野別に見ると、こうなります。
| 製造・ものづくり | 86%(208件) |
|---|---|
| 介護・福祉 | 85%(48件) |
| 医療事務 | 81%(30件) |
| 電気・設備 | 81%(133件) |
| IT・Web | 80%(174件) |
| 建築・CAD | 79%(84件) |
| 事務・経理 | 77%(265件) |
いちばん高い製造・ものづくりと、いちばん低い事務・経理の差は9ポイント。分野内のばらつき(製造・ものづくりで30%から100%)のほうがずっと大きいので、分野で就職しやすさを決めつけるのは無理があります。
実施主体の差のほうが見えやすく、職業能力開発促進センターや職業能力開発校など公的施設が実施する491件は中央値83%でした。人数を積み上げた全国値でも、令和5年度の離職者訓練は施設内86.4%、委託73.6%と差がついています。
低い数字が並ばない理由
分布を見ると、下のほうが不自然に薄いことに気づきます。
| 100% | 98件(10%) |
|---|---|
| 90〜99% | 136件(14%) |
| 80〜89% | 351件(35%) |
| 70〜79% | 271件(27%) |
| 60〜69% | 95件(9%) |
| 60%未満 | 50件(5%) |
58%が80%以上に集まり、最低でも30%です。これは訓練の質がそろっているというより、制度が下を切り落としていることによります。求職者支援訓練の認定基準は、過去3年の雇用保険適用就職率が基礎コースで30%、実践コースで35%を下回らないことを求めています。下回った機関は同じ分野の訓練を認定されなくなるので、募集中の一覧には残りません。
実際、求職者支援訓練449件のうち「うち雇用保険適用」が35%を下回るのは19件だけでした。いま募集しているコースは、すでにふるいを通ったあとの集団です。就職率が並んで見えるのは当然で、その中の数ポイント差に意味を求めても仕方がありません。
では、どう使えばいいか
ここまでを踏まえると、就職率の使いどころはかなり限られます。それでも次の3つには使えます。
- 極端に低いものを避ける……60%未満は50件(5%)しかありません。周囲から明らかに離れているなら、理由を訓練校に聞く価値があります
- 3年の並びを見る……1年だけでなく3年を見て、下がり続けているなら分野の求人が細っている可能性があります
- 「うち雇用保険適用」を見る……フルタイムでの就職を目指すなら、こちらのほうが実態に近い数字です
逆に、してはいけないのは同じ機関のコース同士を就職率で比べることです。多くの場合、同じ数字が表示されているだけで、比較になっていません。
コースを選ぶ材料としては、就職率より訓練内容・想定される就職先・通いやすさ・期間のほうがはるかに効きます。就職率は、その機関がその分野の訓練を続けてきた実績があるかどうかを確かめる程度に使ってください。